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鹿児島地方裁判所 昭和38年(タ)15号 判決 1963年11月19日

原告 岡崎チエ

被告 鹿児島地方検察庁検事正 高橋孝

主文

昭和三一年四月一九日離婚の裁判確定による原告と訴外亡瀬戸口重雄との離婚は無効であることを確認する。

訴訟費用は国庫の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として

一  原告は夫である訴外瀬戸口重雄が終戦後何ら音信なくその生死が三年以上明かでなかつたのでこれを理由として、昭和三一年鹿児島地方裁判所に対し離婚請求訴訟(同裁判所同年(タ)第一号)を提起し、同年四月三日原告と右訴外人を離婚する旨の判決を受け、同年同月一九日その判決の確定により同年五月一一日指宿市長に対しその旨の届出をした。

二  しかるに同訴外人に対しては未帰還者に関する特別措置法に基づき昭和三七年四月二四日鹿児島家庭裁判所において戦時死亡宣告の審判がなされ、同審判は同年五月九日確定し、同訴外人は昭和二七年八月二二日死亡とみなされた。したがつて前記裁判上の離婚は同訴外人が死亡とみなされた日以後になされたこととなり無効である。

三  よつて原告は戸籍訂正の申請をする前提として右離婚の無効確認を求める。

と述べた。立証<省略>

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として原告主張の請求原因事実はすべて不知と答えた。

理由

いずれも公文書であるから真正に成立したものと推定すべき甲第一、二号証、第三号証の一ないし四によると原告主張の事実をすべて認めることができ、右認定に反する証拠はない。

もともと離婚は婚姻の存続していることを前提とするもので配偶者が死亡すればもはや離婚は許されないことが明らかであり失踪宣告又は戦時死亡宣言があつた後も同様に解すべきである。もつともその取消によつて婚姻が復活することも全く絶無ではないが極めて異例のことであるから、離婚の判決後になされた失踪宣告又は戦時死亡宣告の確定によつて配偶者の一方がすでに右判決当時さかのぼつて死亡していたものとみなされた場合には、離婚の判決後配偶者の一方がすででにその判決当時死亡していることの判明した場合と同様、その判決の効力を受ける名宛人は存在しなかつたことになり、当事者に対し既判力、形成力等を及ぼすに由なく、この意味において結局のところ右判決は効力を喪失し、これに基づく離婚も無効に帰したものといわねばならない。これを本件についてみると前記認定の事実によれば原告と訴外瀬戸口重雄との離婚の判決は判決当時何らかしのなかつたものであるが、判決後になされた戦時死亡宣告の確定によつて同訴外人が昭和二七年八月二二日に死亡したものとみなされた結果、判決当時すでに死亡とみなされた配偶者との離婚を認容したこととなるから、その判決による離婚は無効というべきである。

そうして離婚の無効については民法及び人事訴訟手続法には何ら規定はなく、協議上の離婚の無効について家事審判法に規定があるにすぎないが、婚姻の無効が認められていると同様、協議上の離婚はもとより裁判上の離婚についてもその無効を認めるべきであり、婚姻無効の訴に準じ、人事訴訟手続法中婚姻無効の訴に関する規定をこれに類推適用するのを相当とする。

されば原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を(人事訴訟手続法第一七条を類推)適用して主文のように判決する。

(裁判官 田坂友男)

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